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asicro column

更新日:2007.2.5

電影つれづれ草
台流? 華流?

 ポスト韓流として、F4を代表格とする台湾アイドルたちに急速に注目が集まっている。

 少し前には、台流とか華流ブーム到来か? などと言われても、マスコミ主導の匂いが強くて、無理やり韓流から流れを変えようとしているような気がしたし、以前からの香港や台湾芸能のファンの人たちにすれば、「いまさら何だろう、この煽り立ては?」という気持ちが、多かれ少なかれあったのではないだろうか。

 でも最近のF4人気の裾野の広がり方や、台湾アイドルを特集した雑誌の相次ぐ刊行を見ると、いよいよ本格的にブームが起こるのは必至のようだ。けれども、すっかり日本語として定着してしまった「韓流」と違って、「台流」だの「華流」だのと名称が統一できないのは、いささかネックになるかもしれない。どちらの名称を使うかで、使用者(個人とは限らない)のスタンスや思惑が見えてくる言葉でもある。

 かつて中華圏芸能の中心であった香港は、すっかり元気を失ってしまった。F4の登場を契機として次々とアイドルが誕生し、また人気と実力を兼ね備えたミュージシャンを数多く擁する台湾に、いま最も勢いがあるのは衆目の一致するところだろう。強い発信力を持つ台湾芸能は、政治的な関係とはまったく別に、大陸中国に対しても大きな影響を及ぼしていて、台湾芸能人にとっては重要な市場になっている。

 台湾は、商業映画の製作においては、いまだ香港にはかなわないが、テレビドラマのアジア市場での競争力は韓国に肉薄している。日本においてはまだまだ韓国ドラマのシェアが圧倒的だが、台湾ドラマの存在感も少しずつ強まっている。かつて香港では、映画のヒットと共に大スターが誕生したが、台湾では日本と同様に、テレビドラマやバラエティ番組からアイドルが排出する。

 というわけで、台湾贔屓というニュアンスとはまた別に、台湾芸能に対して、香港や大陸中国よりも、一歩先んじた発信力と競争力と独自性を見る人にとって、「華流」よりは「台流」のほうが妥当な言葉であるように思えるだろう。

 しかし、台湾のテレビドラマや音楽だけでなく、すでに認知度の高い香港映画、「女子十二楽坊」や金庸原作の武侠ドラマなどといった大陸産のものもひっくるめて、日本市場に攻勢をかけようと思っている人たち、あるいは台湾・香港・中国のそれぞれの得意分野を統合した強力な中華芸能として、日本での存在感を高めたいと願っている人たちにとっては、「華流」という言葉を採用したいに違いない。

 中華芸能ファンにとって、インターネットで中華圏の最新芸能情報を入手できるのが、雅虎(Yahoo!)や新浪網(sina.com)など、中華系の巨大ポータルサイトの娯楽コンテンツである。新浪網を見ていて容易に気づくのは、日々更新される膨大な芸能ニュースのカテゴリーが、映画、テレビ、音楽といったジャンルだけでなく、内地(中国本土)、港台(香港&台湾)、欧美(ヨーロッパ&アメリカ)、日韓(日本&韓国)という地域ごとに分けられていることだ。これは便宜上のこととはいえ、そこにはある種の同質化と差別化という考え方が透けてみえるように思える。また、東アジアと欧米以外のエンタテインメントの存在がほとんど視野に入っていないのも特徴だ。

 一方、日本では「韓流」そして「台流」にせよ「華流」にせよ、このような地域ごとの映画やドラマや音楽が流入することによって、「アジア」といってひとくくりされていた融通無碍なる概念が、芸能という分野に限っては分化してゆくかもしれない。すでに、韓国ドラマと台湾ドラマの違いが意識され、比較されて語られ始めている。それが何を意味するかは、もう少し状況を見極めるまで、保留しておくことにしよう。

(2005年7月2日)

text by イェン●プロフィール
大学で西洋の映画の講義などをするが、近頃では、東アジア映画(日本映画も含む)しか受け付けないような体質(?)になり、困っている。韓流にはハマっていない、と言いつつドラマ『大長今』(チャングムの誓い)に熱中。中国ドラマ『射[周鳥]英雄傳』も毎回楽しみで、目下ドラマ漬けの日々。

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●筆者関連本情報:
『男たちの絆、アジア映画
 ホモソーシャルな欲望』
(四方田犬彦・斎藤綾子共編)
 4月刊行 平凡社/2525円

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