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ASICRO FOCUS file no.213

不思議なモンスターたちと人間との闘いと共存を描く痛快ファンタジーアクション「モンスター・ハント」

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二銭天師のショウラン(小嵐)と共に闘うソン・テンイン(宋天蔭)

 ジン・ボーラン特集の第2弾は、2015年7月の公開当時、中国で歴代ナンバーワンの興行成績を樹立し、ジン・ボーラン(井柏然)の代表作ともなった『モンスター・ハント(捉妖記)』をご紹介します。すでに、6日より日本での一般公開がスタートしていますが、昨年の東京・中国映画週間でのオープニング上映でご覧になった方もいることでしょう。『シュレック』シリーズでシュレックなどの造型を生み出し、『シュレック3』では共同監督もつとめたCGクリエイター、ラマン・ホイ(許誠毅)の長編デビュー作です。

テンイン
 当初は2015年のお正月映画として製作が進んでいた本作。撮影は2013年末にクランクアップしていましたが、主演していた台湾のコートン・チェン(柯震東)がドラッグ事件で逮捕されてしまったため、急遽撮り直しを決定。当時、ビル・コンが製作していた別の作品(ロイ・チョウ監督の『黄飛鴻之英雄有夢/Rise Of The Legend』)に出演していたジン・ボーランに白羽の矢が立ったのでした。すでにできあがっている場面に合わせての演技なため、動きなどに制約があり苦労も多かったようですが、見事、ピンチヒッター以上の存在感で主人公を演じきっています。

 物語はまだ、妖怪と人間が共存していたという、むかしむかしの中国のお話。人間に追われた妖怪たちは山奥で暮らしていましたが、妖怪の世界でも勢力争いが起こり、凶悪な妖怪が先王を殺して王座につきます。王子を身ごもっていた妃は、従者たちに守られて命からがら逃げ出し、人間界の村へ紛れ込むのでした。その村、永寧村の村長をつとめているのが、ジン・ボーラン扮する主人公のソン・テンイン(宋天蔭)。村長といえども料理と裁縫が得意で、村人にからかわれてばかりいる、お人好しな青年です。

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裁縫の得意なテンインは繕いものを、ショウランは武器を研いでいる

 テンインは、かつて都で妖怪ハンターの英雄として讃えられていた父、ソン・タイテン(宋戴天)に村を託され、勝ち気な祖母と暮らしています。しかし、幼い頃のことなので、自分は父に捨てられたと思い込み、父を恨んでいます。片足が不自由ですが、その理由はわかりません。この父を演じているのは、『故郷の香り』『天安門、恋人たち』『レイン・オブ・アサシン』のグォ・シャオドン(郭暁東)。回想シーンにちょこっとしか出て来ませんが、父の物語になりそうな続編に期待したいと思います。

 テンインを育て上げた気丈な祖母役を演じるのは、香港や台湾で活躍している大女優のエレイン・ジン(金燕玲)。最近では母親役なども演じていますが、本作ではすっかりボケたお婆さんに変身。部屋にからくりを仕掛けるなど、なかなかぶっ飛んだ婆さんなのですが、ある日、息子を探しに行くとひとりでふらっと出て行ってしまいます。しかし後半、思いがけないところで登場してくれるのも、見どころとなっています。

祖母

ぶっ飛んだ祖母を演じるエレイン・ジン(左)
父の剣

父から託された剣は錆びていたが…

 そんなテンインのもとに現れるのが、人間に化けた妖怪夫婦。演じるのは香港の名優エリック・ツァン(曾志偉)とサンドラ・ン(呉君如)。大きなカゴに王妃様を隠しています。久しぶりに客が来たと喜び、テンインが自分の茶店に案内すると、そこへ若い女妖怪ハンターのショウラン(霍小嵐)も登場。彼女は二人の正体を見破り、賞金を稼ごうとやって来たのでした。この男まさりのショウランを演じているのは、今中国で最も輝いている若手女優の一人、バイ・バイホー(白百何)。日本では14年に公開された『最後の晩餐』で注目した方も多いことでしょう。

 大乱闘の末、ショウランは妖怪2匹を捕らえますが、後から来たずる賢い先輩ハンターのラゴウ(羅鋼)に横取りされてしまいます。ラゴウを演じているのは、『罪の手ざわり』が印象的だったチアン・ウー(姜武)。この後、ラゴウは2匹に逃げられてしまうのですが、愉快なミュージカルシーンでエリックやサンドラと共に歌も披露してくれるのでお楽しみに。

妖怪夫婦

妖怪夫婦を演じるサンドラ・ンとエリック・ツァン
ショウラン1

ショウランは妖怪2匹を捕まえる

ショウラン2

バイ・バイホーの様々な表情もキュート
ラゴウ

ラゴウ役のチアン・ウーは歌も披露

 一方、ショウランはというと、逃げ出した王妃から唾をかけられたテンインのもとに残り、王妃をつかまようと張り込み作戦に。王妃は夜中にこっそりテンインを運び出しますが、死期を悟って大切な卵を取り出し、なんとテンインの体内へ押し込んでしまうのでした。突然、妊婦(!)になってしまったテンインを連れ、ショウランは賞金をもらうために都をめざしますが、旅の途中で産気づいたテンインが出産! 産まれたのが、ダイコンのような赤ちゃん王子「フーバ」(と後で名付けられる)でした。さて、この二人と1匹の運命やいかに?!

フーバ

産まれたのは大根のような赤ちゃん妖怪
市場

市場で大根を切る男を見た二人は…

 と長くなりましたが、ここまでは物語の冒頭部分。ここから繰り広げられる、ハラハラドキドキしながらも、ほっこりと心温まる物語は、ぜひ劇場でお楽しみください。

 このほかにも、豪華キャストがずらりと出演。敵役となる大商人(実は妖怪の王)を演じるのは、『いつか、また』『更年奇的な彼女』に続き、最新作『三人行/Three』(監督:ジョニー・トー、出演:ルイス・クー、ヴィッキー・チャオ)も楽しみなウォレス・チョン(鐘漢良)。唯一の悪役を楽しそうに演じています。テンインが出産することになる宿屋で出会う貴婦人は、『女と銃と荒野の麺屋』のヤン・ニー(ヤン・ニー)。宿で暴れる腕白小僧のニウニウは『最愛の子』で幼いボンボンを演じたチョウ・ピンルイ(周品睿)くんです。さらに、都で麻雀好きな質屋の女将を演じているのは、『ラスト、コーション』で衝撃的なデビューを飾り、『レイト・オータム』のキム・テヨン監督と14年に結婚したタン・ウェイ(湯唯)。カメオ出演ですが、出番が増えたのだとか。同時公開中の『ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説』で主演しているヤオ・チェン(姚晨)も女料理人役でカメオ出演しています。

商人

商人グー・チエンフーを演じるウォレス・チョン
貴婦人

出産を手伝おうとして驚く金持ち夫妻のヤン・ニー

質屋の女将

麻雀に目がない質屋の女将はタン・ウェイ
女料理人

ヤオ・チェン扮する女料理人の包丁さばき

 そして、大切な主人公フーバを生み出したのは、もちろんラマン・ホイ監督自身。登場する妖怪たちは、恐竜と猿をかけ合わせたような造型なのですが、中国ならではの妖怪を作るため、古書「山海經」に登場する妖怪の絵から想像を膨らませてデザインされています。ちなみに、『ドラゴン・クロニクル 妖魔塔の伝説』に登場する怪獣も「山海經」をもとにした造型とのこと。後半に登場する凶暴な怪獣たちが似ているのも納得です。ただ、『モンスター・ハント』に出て来る妖怪たちは敵役も含めて、恐いというよりも、どことなく愛嬌があって人間的。いろんな表情や性格もあり、ユーモラスです。それもそのはず。香港人であるラマン・ホイは、妖怪たちに香港人のキャラクターも取り入れたとメイキングで語っています。原典が同じでも、作品によってこんなにもキャラクターが変わるんですね。

妖怪夫婦

愛嬌がある妖怪夫婦のジューガオ(左)とパンイン
フーバ2

腕白フーバは何をしてもかわいらしい

 映像面では、ハリウッドで活躍したラマン・ホイらしく、海外から一流のスタッフを集めています。特撮には『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズや『ハリー・ポッターと謎のプリンス』を手がけたジェイソン H・スネル(ILM)を顧問に迎え、エミー賞受賞の実力を持つ北京のBase FX社が特撮と膨大なCG製作を担当しています。また実写方面では、日本が誇る種田陽平を美術総監督に起用。曲線を活かしたデザインで、妖怪と人間が共存する不思議な世界を作りあげました。

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突然妊婦になったテンインとシャオラン。テンインの家の窓や家具、建物に注目を。

 さらに注目して欲しいのが、音楽を担当したレオン・コー(高世章)。ピーター・チャン監督の作品で知られていますが、本作でも映画音楽だけでなく魅力的な歌曲を創作。人気歌手でもあるウォレス・チョンが歌う「奇書」、同じく歌手のジン・ボーランと歌が得意なバイ・バイホーによるデュエット「明天[イ尓]會在那裡」は、エンディングロールでも堪能できます。

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シャオランが亡くなった父親からもらった笛を吹いてあげるテンイン

 さて、三部作になる予定のフーバとテンインとショウランの物語。ドラマ「皇后的男人 〜紀元を越えた恋〜」でのクールでスマートな公明とはうって変わり、頼りないけど素朴でやさしい青年を演じるジン・ボーランも魅力的です。見どころがいっぱいで、続編も楽しみな『モンスター・ハント』の第一作目を、ぜひお見逃しなく!

(c)2015 Edko Films Limitd, Dream Sky Pictures Co., Ltd., Shenzhen Tencent Video Culture Communication Ltd., Heyi Pictures Co., Limited, Beijing Union Pictures Co., Ltd., Zhejiang Star River Artiste Management Company Limited, San-Le Films Limited, Zhejiang Films & TV (Group) Co., Ltd., Edko (Beijing) Films Limited.


▼「皇后的男人 〜紀元を越えた恋〜」 ▲『モンスター・ハント』
更新日:2016.8.12
●back numbers
『モンスター・ハント』公開情報
モンスター・ハント

モンスター・ハント
(15年/香・中)
原題:捉妖記
英題:Monster Hunt
北京語版/117分
製作:ビル・コン
   イー・チョンマン
   ドリス・ツェ
監督:ラマン・ホイ*
脚本:アラン・ユエン
撮影:アンソニー・プーン
編集:チョン・カーファイ
美術総監督:種田陽平
音楽:レオン・コー
出演:ジン・ボーラン、バイ・バイホー、エリック・ツァン、サンドラ・ン、チアン・ウー、ウォレス・チョン、エレイン・ジン、タン・ウェイ、ヤオ・チェン、ヤン・ニー、グォ・シャオドン
配給:ツイン

*8/6よりシネマート新宿、
 他順次公開予定


特集上映公式サイト
アジクロシネマ紹介ページ
種田陽平監督のFacebook
*『モンスター・ハント』に関するインタビューがリンクされています。
*監督名について
ラマン・ホイ(許誠毅)は、北京語読みだとシュー・チョンイー。『シュレック3』での監督紹介時はラマン・ヒュイ(おそらく、英語表記のHuiからそうなったものと思われ)という表記もありましたが、香港出身監督の正式な読み方は広東語読みのラマン・ホイとなります。
PROFILE:ジン・ボーラン
ジン・ボーラン
井柏然/Jing Bo Ran
Boran Jing


1989年4月19日、遼寧省瀋陽市生まれ。07年にボーイズコンテストで優勝。フー・シンボー(付辛博)と組んだイケメングループ「BOBO組合」として歌手デビュー。一躍人気スターとなるが、10年にはソロに転向。その年の映画『ホット・サマー・デイズ』で俳優として本格デビューし、北京大学生映画祭で新人男優賞を受賞している。その後、話題作に次々と出演。アンディ・ラウと共演した『失孤』で頭角を現し、新世代俳優として注目されている。

ジン・ボーランFacebook
filmography
drama

・女孩衝衝衝(09)
・青春進行時(09)
・兩個女孩的那些事(10)
・33故事館−Yo天使(11)
・新編輯部故事(13)
・皇后的男人
 〜紀元を越えた恋〜(15)

movie

・李米的猜想/愛失償(08)
・美味情歌(09)
・ホット・サマー・デイズ(10)
・建党偉業(11)
・全球熱戀(11)
・影子愛人(12)
フライング・ギロチン(12)
レクイエム 最後の銃弾(12)
・等風來(13)
・黄飛海之英雄有夢(14)
・失狐(15)
モンスター・ハント(15)
・新娘大作戦(15)
・三城記(15)
・盗墓筆記(16)
 *8/1より上映
・微微一笑很傾城(16)
 *8/12より上映
・地獄恋人(17)
 *ロウ・イエ監督作品
  3月より撮影中
  エディソン・チャンの
  映画復帰作としても話題