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進化するインド映画:「ロボット」と最新インド映画情報

 映画大国インドが放つ超話題作『ロボット』が、いよいよ5月12日より公開されます。本作はインドのヒットメーカー、シャンカル監督が構想に10年、製作に3年をかけてついに完成させた会心作。主演に「スーパースター」ラジニカーント(『ムトゥ 踊るマハラジャ』)と「世界一の美女」アイシュワリヤー・ラーイ(『ジーンズ/世界は2人のために』)を迎え、音楽はA・R・ラフマーン、VFXはハリウッドを代表するスタン・ウィンストン・スタジオ(現・レガシー・エフェクツ)、さらにアクション指導は世界で活躍する香港のユエン・ウーピンが担当し、まさに世界最高峰のスタッフ&キャストで製作されています。

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恋するロボット、チッティのダンスシーン (c)2010 Sun Pictures

 35億円の巨費を投じて製作された『ロボット』は、2010年にインド、イギリス、マレーシア、アメリカ…と約3000スクリーンで上映されて大ヒットを記録。タミル語映画では史上最高、インド全土でもベスト3に入る成績と言われており、世界各地でも高い評価を得て、世界興収100億円超の成績を収めています。日本では、昨年の東京国際映画祭・アジアの風部門で初上映され、アジア映画賞スペシャル・メンションを獲得。観客の間でも大きな話題となり、日本公開が待たれていました。

 期待度、そして満足度も満点の『ロボット』公開をきっかけに、再びインド映画が公開される機会もぐっと増えそう。映画ファンの間で話題となった『3バカに乾杯!』や、今年の大阪アジアン映画祭でグランプリを受賞した『神さまがくれた娘』、日本で人気のシャー・ルク・カーンの新作などなど、インド映画界にも新しい風が吹いており、観たい作品がたくさんあります。そこで、今回は『ロボット』公開を記念して、インド映画の第一人者である松岡環さんに登場していただき、『ロボット』と最新インド映画事情を伺いました。

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改造されて暴走するチッティ (c)2010 Sun Pictures

昨年、東京国際映画祭で上映された『ロボット』が5/12より公開されますが、特撮をフルに使ったSFという題材で新鮮です。

 松岡「『ロボット』はインドでも大ヒットしました。オリジナルは南インドの言語タミル語で作られているのですが、隣の州の言語であるテルグ語や、北インドの言語ヒンディー語にも吹き替えられて公開され、人気となりました。37億5,030万ルピー(当時のレートで約68億円)という、かつてない興収をあげたと言われています。

 タミル語の映画が南インドでヒットしても、北インドで公開されるにはヒンディー語映画としてリメイクされる、というのが普通なのですが、珍しくヒンディー語吹替版で公開され、しかも大ヒットした、というまれなケースです。ラジニカーントは北インドでもよく知られており、加えてヒロインがヒンディー語映画界の人気女優アイシュワリヤー・ラーイだったということもあるでしょうが、観客の目を釘付けにするダイナミックなCG映像とSFXが話題を呼んだのだと思います」

日本公開版はヒンディー語による吹替ヴァージョンで、編集版なのがちょっと残念です。

 松岡「でも、とても上手に編集してあって、感心しました。前半で登場するソング&ダンスシーンが2つ切られているのは残念で、特にペルーのマチュピチュ遺跡で歌い踊る『キリマンジャロ』という歌がカットされたのはもったいないですが、オリジナル版を知っている人でも違和感なく楽しめるナイスな編集になっています。むしろ、ストーリーがロボットの話に整理され、集中して見られるのではないでしょうか。

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新型ロボットを開発中のバシー博士 (c)2010 Sun Pictures

 バシー博士がロボットのチッティを誕生させていく過程や、人間社会で摩擦を起こすロボットの描写、そして邪悪な教授によって戦闘プログラムを埋め込まれ、悪のロボットと化して大暴走するシーン等々、見どころが満載です。中でもクライマックスの軍との戦いのシーン、何百体にも増殖したロボットが様々なフォーメーションを形成して戦っていくシーンは、ア然、ボー然、陶然、といった感じですね。よくぞここまで、と、拍手パチパチです。スタント指導は香港のユエン・ウーピンなんですが、彼のテクニックと、ハリウッドとも手を組んだインドのCG&VFXチームの勝利、というところでしょうか。

 さらに主演のラジニカーントもこの新しいジャンルに果敢に挑戦していて、バシー博士とチッティの二役を見事にこなしています。ロボット誕生のシーンで、博士が最後に髪を装着し、それからサングラスを掛けさせるのですが、そこでスーパースター・ラジニカーントの手つきになって、思わず自分でサングラスを掛けてしまいそうになるところなど笑えます。

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バシー博士と恋人のサナ
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ロボットのチッティとサナ

(c)2010 Sun Pictures

 それから、後半にロボットたちのソング&ダンスシーンが2つあるのですが、それもとっても魅力的です。YouTubeにアップされているメイキング映像を見てみると、かなりアナログな撮り方がしてあって、かえってびっくりしました。スクリーンで見た時は、ハイパーな映像のソング&ダンスシーンだと舌を巻いたのですが、すっかり騙されました。メイキングを見ると、ほかのシーンでも手作りというか、マンパワーも最大限に活用しながら撮っていってることがよくわかります。先の話で恐縮ですが、日本版DVDには、た〜っぷりとメイキングシーンを付けてもらいたいとリクエストしておきます」

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(c)2010 Sun Pictures


続きを読む P1 > p2 > P3 ▼『ロボット』作品紹介
更新日:2012.5.10
●back numbers
『ロボット』について
監督・脚本:シャンカル
撮影:R・ラトナヴェール
編集:アントニー・コンサルヴェス
美術:サブー・シリル
衣装:メアリー・ヴォクト
音楽:A・R・ラフマーン
スタント:ユエン・ウーピン
アニマトロニクス&特殊効果:
レガシー・エフェクツ

出演:
ラジニカーント
アイシュワリヤー・ラーイ
ダニー・デンゾンバ

2010年/インド
日本公開日/2012年5月12日
渋谷TOEI、他全国ロードショー
公式サイト
*完全版上映決定!
6/1-15:渋谷TOEI
6/16-:池袋シネマ・ロサ
松岡環さんについて
兵庫県出身。大阪外国語大学インド・パキスタン語科卒。東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所で文部事務官を20年務める。在職中にインド文化交流センターを設立し、「インド通信」を発行。83年に初のインド映画祭を開催する。

退職後は香港やアジア各地の映画にも興味を広げ、95年にシネマアジアを発足。現在は大学の非常勤講師やライター、字幕翻訳家として幅広く活躍中。
*2005年のアジクロピープルでのインタビューで詳しくご紹介しています。

●インド映画やアジア映画の情報満載な松岡さんのブログ
アジア映画巡礼
*『ロボット』公開カウントダウン中。