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ASICRO FOCUS file no.88

アン・リー監督おおいに語る −「ラスト、コーション」来日記者会見

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フォトセッションの後で花束を贈呈
Q:そんなお二人の演技についてコメントやエピソードをお願いします。

 監督「記者会見なので真面目な話しかしていませんが、面白い話はいろいろありますよ(笑)」

 司会「面白い話をぜひお願いします(笑)」

 監督「タン・ウェイは、彼女にとっては初の主演作で、1万人の中から選びました。女性に関する好みですが、僕と中国大陸の男性の好みとはだいぶ違うかもしれません。僕はかなり古風な女性が好きなんです。そこで、皆さんがダメというような人が、僕は欲しいんだと言いました(笑)。タン・ウェイは、万人受けするタイプではなかったかもしれません。(場内爆笑。タン・ウェイも苦笑)

 オーディションの当日、部屋に入って来た彼女を見てびっくりしました。話を聞くと、前日は眠れなかったそうで、眼の下にクマができてるし、日焼けしていて黒い女性でした(笑)。実は、このオーディションで僕と会うことは最高機密になっていて、事前にどの監督と会うのか、彼らには知らされていませんでした。とにかく、助監督から『大物監督に会うんだ』とだけ聞かされていて、皆入って来た時はびびっているようでした。

 タン・ウェイを見た時、正面から見ても横から見ても美しいけれど、顔だけは風邪をひいたようでやつれていました(笑)。彼女がリラックスして入って来たせいかもしれませんが、彼女を見た瞬間に感が働いて『この映画は彼女の映画だ、この人ならできる』と直感が閃きました。彼女の持っている気質、話し方、ふるまい、姿など、私の両親の時代の女性とすべて一致しており(会場笑)、私の中学時代の国語の先生とも似ていて(会場爆笑)、だからタン・ウェイは(他の審査員に)うけなかったんだなと思いました。

 とにかくタン・ウェイが入って来た時は、まさに僕が追い求めていた、いわゆるクラシックな気分というか、古典的な中国美人を見たような気がして、夢心地でした。今は中国も台湾もすっかり環境が変わりましたが、この映画は、古き良き時代の中国を追い求めている映画でもあります。おそらく、父や母を思う気持ち、故郷を思う気持ちが強いので、タン・ウェイが入って来た時にとても親しみを感じたのでしょう。私自身はワン・チアチーにとても親しみを感じており、同化してしまうほどの気持ちを持っていたので、彼女が入って来た時に、この映画は彼女の映画だと思ったのです。

 ただ、1つだけ心配だったのは、いずれベッドシーンを撮らなければならないことです。僕と彼女の関係はどういう風になるのか、僕がワン・チアチーになるのか、僕が彼女をどう指導していくのか、この辺は正直に言って混乱しました。タン・ウェイ=ワン・チアチーだと直感が働いたので、彼女はできると確信しました。彼女が実際に脚本を読み、仲間と一緒に仕事をして思ったのは、タン・ウェイ=ワン・チアチーであり、アイリーン・チャンだということ。3人は三位一体なんです。今回はアイリーン・チャンがあの世からタン・ウェイを選んでくれたのだと思いました。

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監督も賞賛する若い二人のツーショット
 縁も感じました。これまで、役者についてこんなに時間をかけたことはありませんでした。タン・ウェイと一緒に仕事をして得た経験は、人生の中でも特殊な経験だと思います。役者は何本かの映画を経て変わっていくとよく言いますが、タン・ウェイはこの映画の短い期間で、すでに3つの段階を経ていると言っていいでしょう。

 最初はとても天真爛漫で純真な女性で、ベッドシーンを経験して純真さを失い、より成熟した女性に変化して、最後のクライマックスを迎えます。この過程で、彼女も僕自身も勉強しました。完成後にまた映画を観ると、タン・ウェイはとても成熟しており、複雑な演技を見せる女性だと思いました。二人で一緒に闘った結果でもあると思います。

 二人の関係について、もう少しお話しますと、例えば、現場で僕にインスピレーションが湧かない時は、彼女の調子がわるくなってくる。風邪気味になってくるんです。このくらい、二人の間には何かしらの繋がりがありました。このような映画撮影の経験、役者と一緒に闘って撮った映画は、人生で初めてです。

 ワン・リーホンを選んだ理由は、僕の若い頃にそっくりだからです(笑)。アメリカでは、映画の主役が皆かっこいいのは、監督の分身だからだとよく言います。リーホンはアメリカ育ちですが、彼が持っている中国的気質や教養は、僕にとてもよく似ている。彼を見ると学生時代を思い出します。僕も演技の勉強をしていて、主役も演じたことがあります。その主役によく似ています。小さい時に観た映画の愛国青年そのままだし、映画のヒーローにもそっくりだと思って選びました。

 実は彼の役は、最初はあまり期待していませんでした。もともと実在の人物ではなく、ただのイメージだったので、スクリーンの上でそのイメージをやってもらえればいいと思っていました。ところが、一緒に仕事を始めると、彼はとても努力家で真面目で、彼に対する印象がすっかり変わり、彼の役をどんどん膨らませていきました。彼の役も最初はとても純真で、後にそれが失われる、その2つの段階に分かれます。その分かれ目が、まさに彼が殺人を犯す場面です。そのシーンは皆さんよく恐いと言いますが、現場でも3テイク目の時、彼が相手の首をひねる演技があまりにリアルで、僕自身も恐くなりました。ほんとうに首がひねられているのではと思いました(笑)。

 僕が彼を映画の世界に連れて来て、彼もその世界にどんどん入ってきました。そして、この映画の前半部分の素晴らしい演技によって、純真さがとても際立つことになりました。その彼が人を殺す場面の演技では、また成長したなと思いました。彼は若者のアイドルでもありますが、そのシーンによって、アイドル時代と別れを告げようとしているのではないかと思いました。彼と一緒に仕事をして感じた気持ちは重要です。僕は、彼の成長過程の楽しみを分け合う立場にいたのです。彼との仕事を通じて経験したことは、人生において貴重なものになるでしょう。映画の中のワン・リーホンの演技を誇りに思っています。

 今回の3人の役者たちとの仕事は、人生におけるもっともラッキーな段階だったと思います。この3人はまさに僕そのもの、僕の3つの面を表わしています。ワン・リーホンは僕の純真さ、タン・ウェイは心、そしてトニーについてはちょっと言いにくいのですが、男としてのセクシャリティや心の脆さを見事に演じてくれました。この3人はまさに僕の分身です」

 と、まさにアン・リー監督の信念の強さと、俳優への惜しみない賞賛に溢れた記者会見でした。その見事な演技は、ぜひスクリーンで味わってください。(ジャパン・プレミアへ)


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更新日:2008.2.2
●back numbers

記者会見の表記
司会・質問者
監督(アン・リー監督)
ウェイ(タン・ウェイ)
リーホン(ワン・リーホン)
●アン・リー監督作品集

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