story
2020年9月、新型コロナが蔓延する東京で佐藤ダイアナ(Diana Sato)は心配していた。「もう2ヶ月になる。長安さん(Taku Nakamura)はどうしてるかしら…」
7ヶ月前、ダイアナは副業を始めることにした。ダイアナは香港で知り合った日本人と結婚して来日。もう12年になるが、夫は病気で他界してしまい、今は小学生の息子エイジ(Eiji Sato)と二人暮らし。訪問介護の仕事をしているが、空いた時間を使って中国語会話教室を開くことにする。
宅配便で働く長安拓は、仕事が終わると大学の先輩(Go Yamamoto)とキャッチボールをする。大学では野球部に所属。プロ野球の選手になるのが夢だったが、就職氷河期世代で野球はおろか、就職さえできなかった。飲みにいくと、派遣社員の先輩は仕事の愚痴ばかり。仕事が安定しないと結婚も難しい。食べるために働く日々で、生きる目標が見えない。そんな時、長安は懐かしい音楽を耳にする。
ダイアナはカフェと区民センターで対面教室を開く。授業は90分で3000円。最後の30分は、中国についてのおしゃべりをすることにした。応募する生徒には、中国語を学ぶ目的を書いてもらった。
長安は押入れから古いラジカセとCDを引っ張り出す。かけたのは、あの懐かしい曲。香港映画『恋する惑星』でフェイ・ウォンが歌っていた「夢中人」だ。カフェで酢豚定食を食べた長安は、帰りに中国語会話教室の募集を見つけて応募した。「ナガヤスタクです。目的は、フェイ・ウォンのファンなので香港へ行きたい」ダイアナは「フェイ・ウォンは北京に住んでいる」と返事するが、それでもいいと言う。
香港は広東語だが発音が難しいので、まず北京語から習うことになった。四声の発音から始める長安。久々に目標ができた彼は、違う世界を見てみたいと張り切る。だが、その頃の香港ではデモの嵐が吹き荒れていた…。
アジコのおすすめポイント:
「香港人と日本人ーそれぞれの現実」をキャッチコピーに、日本で暮らす香港人女性が開いた中国語教室と、そこに通うことで生きる目標を見つけた就職氷河期世代の青年との交流を描いた作品です。2020年といえば、香港の若者たちの蜂起と一国二制度の崩壊が起こった年。ロスジェネ世代の青年にはどう映ったのか。それは想像にお任せするとして、本作ではロスジェネ世代の青年と先輩との関係も面白く、ワンタンパーティなど心温まる場面もあり。異文化交流をきっかけに変化していく人々が描かれています。事実を背景にしたドキュメンタリードラマを、なんと50万円という低予算で作りあげたのはインディーズ映画の藤本直樹監督。14年ぶりの新作は世界の映画祭に出品され、多数の映画賞を受賞しています。シンプルでストレートな表現に滲み出る確かなリアル。何が世界を引きつけたのか、劇場で確かめてください。池袋では1週間限定公開。その後、各地で順次公開予定です。
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