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父は憶えている

父は憶えている(Esimde/This is What I Rememer)

監督:アクタン・アリム・クバト
脚本:アクタン・アリム・クバト
   ダルミラ・チレブベルゲノワ
撮影:タラント・アキンベコフ
編集:エフゲニー・クロクマレンコ
音響:マルス・ツゲロフ
整音:ランコ・パウコヴィッチ
美術:エルチベク・シャメノフ
出演:アクタン・アリム・クバト、ミルラン・アブディカリコフ、タアライカン・アバゾヴァ

2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス
日本公開日:2023年12月1日
カラー/1:1.85/105分
字幕:
配給:ビターズ・エンド
©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films
2022年 米アカデミー賞国際長編映画賞キルギス代表
2022年 東京国際映画祭コンペティション部門正式出品
2022年 アジア太平洋映画賞 審査員特別賞
2022年 ユーラシア国際映画祭
 国際コンペティション部門 最優秀賞
2022年 ゴーイースト映画祭 審査員特別賞


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poster


story

 川にかかる吊り橋を、クバト(ミルラン・アブディカリコフ)は23年ぶりに見つかった父親のザールク(アクタン・アリム・クバト)と共に渡っていた。ロシアへ出稼ぎに出たまま行方不明になっていたザールク。村では死んだと思われていたが、クバトが見つけ出したのだ。

 家に着くと、幼い娘のスルガ(Ainazik Seyitkanova)が出迎える。妻のメーリム(Elnura Osmonalieva)も乳飲み子を抱えて出てきた。クバトは父に妻と娘を紹介し、下の息子の名は父と同じザールクにしたと話す。父のために建てた離れの家に案内するクバト。だが、父は無表情のまま一言も口をきかない。若い頃の写真を見せられるが、木立の前で妻と二人で写った写真にだけかすかに覚えがあった。

 村人たちは帰郷したザールクの噂話で持ちきりだ。昔なじみの同級生たち、ほろ酔い加減の夫婦と友人の男が車に乗って会いにやってきた。女は若い頃を思い出し、車の中で愛の歌を歌い出した。「ジャイチの奴があんたの女房を横取りしたぞ」だが、ザールクは何を言われても無反応だ。「父さんはひどい事故で記憶を失くしたんだ」と説明するクバト。

 妻のウムスナイ(タアライカン・アバゾヴァ)はザールクの帰りを待っていたが諦め、村の権力者ジャイチ(Nazym Mendebairov)の母親(Anar Nazarkulova)に気に入られてジャイチと再婚していたが、強欲で横暴なジャイチとの間に愛はなかった。邸宅に住む母親をクバトが訪ね「父さんに会いに来ないか」と話しかける。

 長く伸びた髪を短く切ったザールクは、村に散乱するゴミ集めを始める。ひたすらゴミを集め、クバトのトラックに積んでゴミ捨て場まで運ぶが、そこでも捨ててあるゴミをひろって集めるほどだった。スルガはそんなザールクになつき、ついて回る。

 一方、戻ってきたザールクの姿を見たウムスナイは「私はどうすればいい?」と悩んでいた…。

アジコのおすすめポイント:

かつて出稼ぎのためにロシアへ渡ったまま行方不明になっていた父親を息子が見つけ出し、23年ぶりに故郷の村へ連れ帰るのですが、故郷は変わり果て彼も記憶を失くしてしまっていました。そんな彼を通して、家族や村の人々が自分自身を振り返るヒューマンドラマです。キルギス映画界を代表するアクタン・アリム・クバト監督が、キルギスへの思いを綴った3部作(2010年『明かりを灯す人』2017年『馬を放つ』)の最終章。主演は監督自身が演じ、息子役も息子で監督でもあるミルラン・アブディカリコフが演じています。妻役を演じるのも監督作の常連女優タアライカン・アバゾヴァです。

監督によれば、記憶を失くした父親には、今のキルギスという国が象徴されているとのこと。中央アジアの真ん中にあり、中国、ロシア、中東、南アジアをつなぐ要所でもあるキルギスは周辺国の影響を受け、宗教(イスラム化)や経済発展による格差とゴミ問題、政治不信、倫理観や道徳観の変化など、様々な問題を抱えているとか。唯一変わらないのが家族愛の強さ。愛と思いやりが希望であり救いとなっています。ゆえに、ゴミを拾い続ける父親は思い出の木立で妻の歌声を聴き、何かを感じるのでしょう。冒頭に登場する白く塗られた木々の林が、絵本のように素敵で印象的だったのですが、ここがこの物語の一番大切な場所。妻が歌うのは映画の原題になっている「エシムデ」。もともとは山間部の遊牧民だったキルギスの人々にとって大切な歌だそうです。そして、樹木を白く塗ることで人生を新たにやり直す。キルギスならではのラストには、そんな希望が込められています。


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▼公式サイト ▼予告編