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草原に抱かれて

草原に抱かれて(臍帯/The Cord of Life)

製作:フー・ルオチン、リウ・フイ、フー・ジン
監督:チャオ・スーシュエ
脚本:チャオ・スーシュエ
撮影:ツァオ・ユー
編集:チャン・イーファン
音響:フー・カン
美術:ジャオ・ズーラン
メイク&衣装:リー・ジョウ
音楽:ウルナ(Chahar-Tugchi)、イデル、ウヌル
出演:バドマ、イデル

2022年/中国
日本公開日:2023年9月23日
カラー/DCP/96分/モンゴル語
字幕:鈴木真理子
配給:パンドラ
2022年 海南国際映画祭
 ゴールデンココナッツ 最優秀芸術貢献賞
2023年 中国映画チャンネルアワード
 新人監督賞(チャオ・スーシュエ)
2023年 ウェイボーアワードセレモニー
 新人監督賞(チャオ・スーシュエ)
2023年 上海国際映画祭
 中国映画チャンネルメディアアワード 最優秀女優賞(バドマ)
2023年 ホルクム国際映画祭 観客賞

poster


story

 アルス(イデル)は電子楽器と伝統楽器を組み合わせて演奏する人気ミュージシャン。都会のライブハウスで演奏中、スマホに母親から何度も不在着信があり、ライブ後に電話するが母は「誰?」としか答えない。心配になり翌日、母と同居している兄チョルモンのマンションを訪ねるが、母の部屋には鍵のついた鉄格子のドアがつけられていた。認知症が進み、目が離せないのだ。

 アルスを見た母親(バドマ)は「馬が来た」と喜び、「家に帰ろう」と荷造りを始める。部屋の壁には草原や羊、大きな樹の落書きがあった。翌日、アルスは母を車に乗せて、森を抜け、広大な草原の中に佇む幼い頃に住んでいた家に連れて行く。湖のほとりで「いろんな音がする」と耳をすませる母。その夜、母が行方不明になり、隣人の娘タナや警察が羊飼いの所にいるのを見つけてくれた。

 母を連れて街に戻ると、兄夫婦の喧嘩が聞こえた。外で待っていた母は、近くの仕立て屋に入り込み、飾ってあった服を気に入って試着させてもらう。それは売り物ではなく、店の主人が自分の母のために作ったものだったが、子どもみたいに脱ごうとしない様子を見てプレゼントしてくれた。誰もいない劇場に座って舞台を見つめ、耳を傾ける母。手には、2004年の馬頭琴の演奏会チケットが握られていた。

 草原の家に帰ると、タナが蓄電池を持ってきてくれた。アルスはパソコンや機材を取り出して、タナのバイクの音をサンプリング。「どんな音でも音楽になる」とアルスが言うと、ずっと生まれた土地にいるタナは「ここに残って、草原の音で音楽を作っては?」と提案する。放っておくと、母はすぐ勝手に遠くへ行ってしまうので、アルスは母と自分の身体を長い紐で縛ることにした。

 夜中、酔っ払った羊飼いのトラックが壁に激突。大きな穴を開ける。母は不安そうに「家に帰りたい」と古い写真を見る。それは大きな樹のそばで、母が祖父母と映った写真だ。タナの家に招かれた時、その樹を見たことがある人から「尋ねながら行けば見つかる」と言われた。その夜、草原の家に戻ると、母が「来たわ」と窓の外を見つめている。暗闇の中に、母の両親や夫と踊る使者たちがいる。

 アルスは、サイドカーに母を乗せてバイクに乗り、馬頭琴と移動式ゲルを積んだリヤカーを引いて、半分枯れた大きな樹を探す旅に出る。

アジコのおすすめポイント:

中国側の内モンゴル自治区にある広大な大自然を背景に、認知症の母親とミュージシャンの息子が旅に出る物語です。それは、母が懐かしい両親や夫の元へ旅立つための旅。子どものような母親が大自然に帰っていく旅でもあります。昨年の東京国際映画祭「アジアの未来」部門では『へその緒』のタイトルで上映され、一番印象に残った作品でした。監督&脚本は内モンゴル自治区の出身で、フランスで映画を学んだ新鋭チャオ・スーシュエ(喬思雪)。本作が長編デビュー作です。伝統的な描写の中に、若い監督ならではの感性が活かされ、ファンタジーな演出も効いています。無邪気な母親役を演じたのは、音楽一家に生まれ北京で声楽も学んだバドマ。ニキータ・ミハルコフ監督の『ウルガ』など、多くの映画で主演を務め主演女優賞も獲得しているベテラン女優です。ミュージシャンの息子を演じるのは、音楽も担当しているイデル。映画と同じく電子楽器と馬頭琴を演奏するシンガーソングライターで、国内外の音楽祭でも活躍中。本作が映画初主演です。実生活でも音楽に囲まれている2人が、大自然を背景に言葉よりも音で繋がっていくのは自然なんですね。その他のキャストは内モンゴルで見つけたそう。脚本は中国語で書かれており、それをモンゴル語に翻訳して自然な口語に近づけていったとか。話題のドラマ「VIVANT」に出てくる架空のバルカ共和国と関係があるかどうかは不明ですが、2人が話すモンゴル語はバルガの方言だそうです。監督は映画祭のティーチインで「母と内モンゴルに捧げた作品」と語っていました。介護問題にも触れつつ、現代の都会で暮らす青年が、故郷の大自然や音、伝統的な暮らし、文化や芸能を体験しながら、母親を送り届ける物語。母と子の絆がグッと心に刺さりますが、癒される作品でもあります。ぜひ、大きなスクリーンでご覧ください。

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