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asicro interview 84

更新日:2020.5.13

『アンフェタミン』

 『アンフェタミン/安非他命』(2010)はスカッド監督の第3作目。デビュー作『シティ・ウィズアウト・ベースボール』と2作目の『パーマネント・レジデンス/永久居留』(2009)と合わせて「運命の愛を描く三部作」となっています。主演はミスター香港で名を馳せたバイロン・パン(彭冠期)と、最近では『台北セブンラブ』など台湾映画界でも活躍しているモデル出身のトム・プライス(白梓軒)。このイケメン二人が演じるのは、とてもせつないラブ・ストーリー。バイセクシャルの青年とストレートの青年が出会い、友情から愛情へと発展していくのですが、過去のトラウマとドラッグに引き裂かれていきます。

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カフカはダニエルに水泳を教える
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橋の上からバンジージャンプする二人

(c)Artwalker Ltd.

 オーストラリアからやって来たエリート証券マンと、墓地のあばら家に住む水泳コーチの青年という対象的な境遇の二人が徐々に仲良くなり、親密な感情を抱くようになる過程はとても自然で爽やか。特に、水泳とマーシャルアーツで鍛えた肉体に、少年のような無垢な微笑みを浮かべるバイロン・パンの演技は出色で、香港電影金像奨で新人賞にノミネートされたのも納得です。建設中でまだ繋がっていない橋が、二人の状況を象徴するように何度も登場します。2010年に発表されたデニス・ンが歌う本作のイメージソング「斷橋」MVも必見です。
(*インタビューは結末に触れていますので、知りたくない方は映画観賞後にご覧ください。)

Q:冒頭からジャンプシーンで飛ぶイメージがありますが、映画全体の象徴でしょうか?

 監督「これは運命の裂け目みたいなものですね。愛に飛び込んでいく。ドラッグに飛び込んだように。とても危険なことでもあります。ただ飛び込むだけで、簡単に命を奪います」

Q:主人公の名前は村上春樹さんの小説「海辺のカフカ」から来ていますね。

 監督「カフカというのはチェコ語で鳥という意味です。この鳥は飛び立って虫を探し、戻ってきて親鳥にエサを与える。それがカフカです。もう1つは本から来ていて、書店の女性が僕にくれた本です。日本人の作家が書いた素敵な本でした。また『変身』の作者であるフランツ・カフカのイメージも合わせ持っていて、自分自身を変えていくという意味もあります」

Q:本作もデビュー作と同様にローレンス・ラウ監督との共同監督ですね。

 監督「最初の作品で一緒にやった時は同等の関係だったので、ぶつかり合う事もあり、やりにくかったんです。その教訓があったので、『アンフェタミン』では縦の関係にしました。僕が監督、ローレンスがエグゼクティブディレクターになり、僕がアート面を担当。撮影を彼がやりました。完璧に分けたのです」

Q:主演の二人にバイロン・パンとトム・プライスを選んだ決め手は?

 監督「実はこの二人は6番目の組合せでした。それまでに、たくさんの違うタイプの組合せを考えていました。最初に決めたカップルは全く違うタイプ。一人は背がとても高くて、片方は背がとても低い。違和感のある二人。ミスマッチが続く感じです。こういうキャラクターだと、1本の映画にするには苦情が出そうでチャレンジングなのですが、それこそ僕が作りたかった意図なんです。こういう二人だと最初はうまくいかないけど、最後には強い絆を作れますからね」

Q:ナンバー1のカップル候補は誰だったんですか?

 監督「一人は香港でモデルとして働いてる日本人でした。日本人と日系ブラジル人。彼らだったら、全く違うコンビになったでしょう。最初はやりたいと言っていたんですが、クリスチャンだったので、やはりこういう映画はできないと断られました。それで、何度も撮影するたびに、違いが大きくなっていったんです」

Q:でも、バイロンとトムはちょうどいい感じですね。

 監督「彼らはとても忘れ難いコンビになりましたね」

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カフカにはメイというGFがいたのだが…
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奇行に走るカフカに寄り添うダニエル

(c)Artwalker Ltd.

難しかった水中シーンの撮影

Q:とても印象的な水中シーンはどのように撮影したのですか?

 監督「水中撮影ができる香港のスタジオのプールで撮影したのですが、とても難しかったです。なにより、撮影の日は特に寒い日でした。真夜中で9度しかなかった。二人の俳優はできるだけ長く水の中にいなければなりませんでした。一番深いところまで潜って、上がっていくところを撮影しなくてはならないので。水に潜っては撮影し、あがってきて編集してまた潜ると。二人ともアスリートで泳ぎが得意だったので、素晴らしい演技をしてくれました」

Q:バイロンさんは水泳選手ですが、トムさんも得意だったんですね。

 監督「もちろん、バイロンの方が上手いです。二人で競争するシーンがありますが、あんな感じですね」

Q:では、実際に息を止めて撮ったんですね?

 監督「ええ。一番底まで泳いで、それぞれの瞬間を撮っていったので大変でした」

Q:カフカが入院する時に、ダニエルはオーストラリアへ帰ってしまいます。

 監督「彼が帰ったのは選択肢がなかったからです。カフカは病院へ入院し、ダニエルはたくさんのことをしてあげたけど、もう何もしてあげられることがなくなった。彼には仕事のキャリアがあるので、オーストラリアへ帰ります。しかし、帰る途中のタクシーの中で、カフカの叫び声を聞いたような気がします。二人はまだ繋がっているのです」

Q:一生守ると言っていたのに。

 監督「帰る前に、ダニエルはカフカに一緒にオーストラリアへ行って結婚しようと言っています。彼の意思はそうだったけれど、便宜上の理由でしばらく離れなくてはならなくなる。それが永遠に彼を失うことになる訳です。映画の冒頭で、ダニエルが仕事で香港を訪れて、タクシーに乗るシーンがありますよね。彼の人生はそうやって続いていくけれど、もう片方の人生は終わってしまう。そういう違いを出したかったのです」

Q:ただ、カフカの中では水中でダニエルと繋がりますね。

 監督「ここは観客の解釈に任せているシーンです。カフカの幻想と思ってもいいし、実際の彼は病院にいるかもしれません。もしくは、実際に彼は病院を抜け出して、橋から飛び降りたかもしれない。いずれにしても、彼は死にます。飛び降りようと降りまいと、最後に彼の心に残っていたことなのです。とても悲しいことですが、人生の最後の瞬間に彼の夢が実現する。彼は結局、ダニエルと一緒になれるのです」

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この美しいシーンが撮られるまでに多くの苦労があった
(c)Artwalker Ltd.

Q:今後の監督の作品には、二人はもう出演しないのでしょうか?

 監督「それはわかりません。役柄が合うかどうか、彼らのスケジュールが合うかどうかにもよります。特に起用しない訳ではないです。どうして自分の俳優たちとマネジメント契約しないのかと、ずっと言われているんですが、僕は俳優たちを拘束したくありません。もしそうすると、他の俳優を起用したくなった時、それは自分にとってピュアなは行為でなくなるからです」

 『アンフェタミン』は2010年のベルリン国際映画祭で2部門のコンペティションに参加。香港国際映画祭ではクロージング作品に選ばれました。日本でも同年の関西クィア映画祭2010で上映されています。撮影は『ベルベット・レイン』『イザベラ』などのパン・ホーチョン作品で知られるチャーリー・ラムが担当しており、美しい映像も見どころ。音楽はアンソニー・ウォン(黄耀明)が主宰する人山人海のホー・サン(何山)とユー・ヤッイウ(于逸堯)が手がけています。また、デニス・ンが本作に捧げた「斷橋」は、2010年の香港メトロラジオ(新城電台)ヒット・アワードでオリジナル歌曲賞を受賞しています。

 前回のインタビューで「レスリー・チョンが跳んだ日」の体験談を伺っているのですが、タクシーの中でダニエルがふと振り返るシーンにそれが重ねられているように思います。監督はレスリーのドキュメンタリーフィルムのオファーも受けたことがあり、当時は荷が重すぎると辞退されていますが、本作にはレスリーへのオマージュも捧げられているのかもしれません。

 いろいろな面で興味深く、また美しい作品でもあります。LGBTQ映画に関心のある皆さんだけでなく、香港映画ファンやレスリーファンの皆さん、アートフィルムが好きな方、せつないボーイズラブが好きな腐女子の皆さんなどなど、どなたにもお薦めしたい作品です。
(▼新作と香港へ)


シティ・ウィズアウト・ベースボール < アンフェタミン > 新作と香港

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作品紹介

「安非他命」

アンフェタミン
安非他命/Amphetamine
(2010年/香港)


広東語・英語・北京語
カラー/ドルビー/97分
ワイドスクリーン

製作:スカッド
監督:スカッド
   ローレンス・ラウ
脚本:スカッド
撮影:チャーリー・ラム
編集:ヘイワード・マク
美術:ジャック・チャン
音楽:人山人海

CAST
バイロン・パン
トム・プライス
ウィニー・リョン
リンダ・ソー
サイモン・タム

*2010年ベルリン国際映画祭
 パノラマ部門コンペ作品
*2010年ベルリン国際映画祭
 テディベア賞コンペ作品
*2011年香港電影金像奨
 新人賞ノミネート
*2010年香港国際映画祭
 クロージング作品
*関西クィア映画祭2010上映

発売:2019.12.2
ミューズ・プランニング

作品トリビア
カフカとダニエルが付き合い始めた頃、ギャラリーへ寄るシーンがありますが、あのギャラリーはArtwalker Limitedの香港オフィスで、展示物や写真集など、セルフパロディとなっています。

英語が話せるダニエルの影響を受け、カフカが「海辺のカフカ」英語版を買ってきて英語の辞書を見ながら読むシーンがあります。

二人の関係を進めるため、カフカはレンタルビデオショップへゲイフィルムを借りに行きます。店長を演じているのがスカッド監督。ローレンス・ラウ監督も物乞い役で出ています。