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asicro interview 80

更新日:2019.4.5

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東京国際映画祭でのプレミア上映で来日したエリック・クー監督
美しくて巨大な観音像、
あれが決め手でした。
 ー エリック・クー(邱金海)

 3月8日より全国で絶賛上映中の『家族のレシピ』。日本とシンガポールの国交50周年を記念した作品として作られた合作映画ですが、共にグルメ天国である「食」、それも庶民に浸透しているラーメンとバクテー(肉骨茶)をメインテーマに、家族の愛と慈悲の心が詰まった心温かい作品に仕上がっています。

 日本公開に先立つ昨年の東京国際映画祭でのプレミア上映の際、本作を監督したシンガポールのエリック・クー監督にインタビューをさせていただきました。ご紹介がすっかり遅くなってしまいましたが、まだ上映が続く映画館もありますし、これから上映スタートの地域もあります。2回、3回とご覧になる方もおられると思うので、改めて詳しくご紹介します。

 今回は2媒体での合同取材でしたが、通訳が映画祭などの英語通訳でお馴染みの松下由美さん、ご一緒したのがアジポップ編集長の橋本光恵さんだったので、とてもリラックスした雰囲気に。ユーモラスな監督とのおしゃべりが楽しくて、話があちこちに飛んでしまったので、少し整理してお伝えします。

シンガポールと日本

橋本(以下H):今のシンガポールの若い人たちは、日本に対してどんな印象を持っているのでしょう。

監督「皆、大好きですね。日本の文化や食べ物に魅了されています。非常に多くの面で、日本というのはシンガポール人が一番行きたい場所なんです。福岡や東京、そして食べ物と、日本旅行を1週間するために、お金を貯めている人がたくさんいますよ」

H:エリックさんも日本を熟知しておられますね。松田聖子さんのファンだったそうですが、小さい頃から日本の映画や音楽に接しておられたのですか?

監督「そうです。もっとも、今のシンガポールの若い人たちは、日本の音楽よりもK-Popを聴いて育っていますが。でも、国という面では日本にとても親しみがあります。シンガポールには日本食レストランがとてもたくさんあるんです。この小さな国に、なんと1000件以上の日本食レストランがあるんですよ!」

アジクロ(以下A):それは、かつて多くの日本企業がシンガポールに進出したから?

監督「そうですね。私が育った時代にはヤオハン(八百半デパート)がありました。『わあ!ヤオハンってなんて大きいんだろう!』と。その頃から、日本食に興味を持ち始めたんです。当時はまだ日本食レストランが3件くらいしかなかったので、もうなんでも試してみました。それがここまでに拡がったわけです。なかでもやはり、ラーメンは魅力的で、ラーメンが大好物の人が多いですね」

A:監督もラーメンが一番お好きなんですか?

監督「ワオ。それはあまり日本食という感じじゃないかな(笑)。私は懐石料理が大好きなんです。今日はお寿司をたくさん食べました。大トロをシンガポールで食べるとすごく高いのですが、日本でなら好きなだけ食べられますから。シンガポールのショッピングセンターには日本料理店が必ず入っていて、巨大なドンキホーテもありますよ。ダイソーも。そこに住んでるようなシンガポール人がたくさんいます(笑)。日本では買い物や食べ物だけでなく、日本建築が好きで街の雰囲気などを楽しむ人もいます。それから、スキーも大きな魅力ですね。シンガポール人はスキーが大好きなので、北海道や札幌も人気があります」

 この日のランチは回転寿司に行かれた模様。お寿司といえば日本でもピンキリですが、日本にはリーズナブルで美味しいお店も多いので、そこも外国人には魅力かもしれませんね。

斎藤工さんのこと

H:斎藤工さんはとても自然に真人を演じておられますが、彼は監督の作品になんとしても出たいと思っていたそうです。初めて彼に会った印象はいかがでしたか?

監督「初めてお会いしたのはかなり昔で、東京国際映画祭で紹介されました。その時はご挨拶程度だったのですが、昨年、スカイプ(スカイプ・オーディション)で彼と話をしたんです。20分程度の台本を渡して読んでもらったのですが、彼はこの役柄に最適な人だと思いました。繊細だし、料理をしてもらう時の立ち姿もとてもよかったし、パーフェクトなキャスティングだったと思っています。実際にできあがった作品を観ると、彼は期待以上のものをもたらしてくれていました。彼の演じる真人を見てとても感動しましたね。これまでに何本か映画を撮っていますが、撮影中に泣いたことは一度もありませんでした。でも今回は初めて、撮影クルー全員が泣いていました」

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真人は母の味と過去の謎を調べるためにシンガポールへ旅立つ

(c)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale

A:真人が祖母に怒鳴り込みに行くシーンがありますね。今の僕たちには関係ないのに、どうして過去のことにこだわって母を苦しめたのかと。

監督「真人の立場からすれば、感傷的にもなりますよね。斎藤さんは戦争博物館に行った時、ほんとうにショックを受けていました。当時何が起こったのか、詳しいことは何も知らなかったのです。ロケに行った日、彼の顔を見ると青ざめていました。そして、僕のところへやって来ると手を取って『ほんとうにごめんなさい』と言いました。あちこちを歩き回って展示は見ていましたが、まだ、体験談のナレーションを聞く前でしたね。その日はかなりインパクトを受けたようで、1日中、ずっと何かに心を動かされていたようでした」

H:ほとんどの日本人は知らないと思いますね。斎藤さんと同じで、この映画を観るまでは、日本兵とそんなことがあったなんてとショックでした。シンガポールまで侵攻していたことも知りませんでした。

監督「今、ヨーロッパで公開されていますが、シンガポールが日本に占領されていたことを知らないヨーロッパ人もたくさんいました。中国や韓国についてはよく知られていますが」

H:斎藤工さんというと、日本ではセクシーな男優の代表みたいになっているのですが、この真人役が素の姿に近いような気がしますね。

監督「まさにそうです」

 前日の東京国際映画祭でのプレミア上映後にあった舞台挨拶で、斎藤工さんは今回の演技について「俳優として、今まで経験したことのない、生きた時間、俳優としての進行形の自分が写り込んだ作品で、演じたという感覚も記憶もないんですね。エリック・クーの魔法にかかって、俳優業の表現としての真髄、新しい扉を開いた体験をしました。同時にフィルムメーカーとしての扉も撮影中に開いてくれて、彼との出会いの大きさを感じています」と話していました。

H:昨日の舞台挨拶で、彼もこのような役に出会って喜んでいましたね。
A:今後の役選びが変わるかもしれませんね。

監督「それに素晴らしいのは、とても人間味があって親切なところ。撮影中は私たち皆、特に女の子たちは、彼が大好きでしたが、それは彼が慈悲深いからなんです。例えばチャリティ活動。彼は毎日とても忙しいのに、時間を作ってチャリティ活動をやっていました。そういうところに彼の心の優しさが現れていると思います。感動したことといえば、こんなこともありましたね。数ヶ月前にシンガポールで彼と会った時、(監督が食通というのを知っている)彼はとても美味しい京都のガーリックチリ(平安神宮の売店でしか買えないというにんにく唐辛子かも)を買ってきてくれたんです。食べ方も教えてくれましたが、とても美味しかったです」
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profile
エリック・クー
Eric Khoo
邱金海/Khoo Kim Hai


1965年3月27日、シンガポール生まれ。オーストラリアのシティ・アート・インスティテュートで映画製作を学ぶ。多数の短編を監督した後、『Mee Pok Man』(95)で長編デビュー。続く『12 Storeys』(97)『Be With Me』(05)『My Magic』(08)でカンヌ映画祭の常連となる。日本での初公開作品となった『TATSUMI マンガに革命を起こした男』(11)では、劇画創始者の辰巳ヨシヒロの人生と作品をアニメーションで表現している。

映画製作会社 Zhao Wei Films 主宰。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの三大国際映画祭で作品が上映された初めてのシンガポール人監督。プロデューサーとして、ロイストン・タンやブライアン・ゴートン・タンなど、後進の育成にも積極的に力を注ぐ。斎藤工も含む6カ国の監督が参加したHBOアジアの『Folklore』(18)ではショーランナーを務めた。
filmography
movie
・ミーポック・マン(95)
・12階(97)
・一緒にいて(05)
・私のマジック(08)
TATSUMI
 マンガに革命を起こした男

 (11)
・60 Seconds of Solitude in
 Year Zero(11)
 *オムニバス作品
・Recipe
 *テレビ映画
・部屋のなかで(15)
・セブンレターズ(15)
 *オムニバス作品
・Wanton Mee(16)
 *テレビ映画
家族のレシピ(18)
Folklore(18)
 *HBOアジアの6作品による
  ホラーシリーズ
関連リンク
Zhao Wei Films
斎藤工 公式サイト
松田聖子 公式サイト
HBOチャンネル

TATSUMI マンガに奇跡を起こした男

TATSUMI
マンガに奇跡を起こした男
(DVD)

出演:別所哲也、辰巳ヨシヒロ
(角川書店)


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著:橘 豊(だいわ文庫)
972円(大和書房)


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