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asicro interview 76

更新日:2017.12.27

この作品は、思わぬ子供が生まれたようなもの
 ー ウェイ・ダーション(魏徳聖)

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6年ぶりに自身の監督作が公開されているウェイ・ダーション監督

 いつの時代も、人々の心をキュンとさせ、じんわりと暖かい気持ちにさせてくれるのは「恋愛」。そこには単に幸せなだけでなく、辛さや悲しみも含まれていますが、それでも恋愛は人に勇気を与え、人生を励ます糧に成長していきます。そんな恋をしませんか?と、年齢・性別に関係なく、あらゆる人々に向けて呼びかける「恋愛讃歌」を、なんとウェイ・ダーション監督がミュージカルというスタイルで作り上げました。台湾では2017年のお正月(春節)映画として公開された本作、バレンタイン・デイの1日を描いていますが、日本では12月16日より、クリスマスをはさむロマンチックな時期に公開されています。

 公開前の11月、2つの映画祭の合間にウェイ・ダーション監督が来日。単独インタビューの機会をいただいたので、本作誕生にまつわるお話をいろいろと伺いました。ぜひ、映画と共にお楽しみください。

ミュージカル作品になったわけ

 ウェイ・ダーション監督といえば、日本と台湾の関係を歴史から紐解き、その中でユニークなドラマを展開していく作風で知られています。が、今回はその世界から離れ、都会に暮らす様々な人たちの恋模様をシンプルに描いています。しかも、ミュージカル。まずは、そこから尋ねてみました。

Q:今回はミュージカルということで、とても驚いたのですが、10年前の最初に思いついた時は違う物語だったそうですね?

監督「最初は花屋の女の子とパン屋の男の子だけの話でした。この二人以外は、だんだん少しずつ増やしていったんです」

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(c)2017 52Hz Production

Q:ミュージカルにしようと思われたのはどうして?

監督「映画はドラマなので、いろんな会話やセリフがあります。でも、今回はこういうテーマなので、会話にしてしまうと何か惹きつける要素が足りなかった。受け止めてもらえない気がしました。いい感じのセリフを書こうとすると、非現実的な内容になってしまう恐れもありました。そこで思いついたのが、歌を通して表現すること。歌詞なら自由に書けるし、歌だから受け入れてもらいやすい。ミュージカルにするのがぴったりだと思ったわけです」

Q:「甘く幸せな映画を作りたい」ということですが、何か感じておられることがあるのでしょうか?

監督「都会に住んでいる人間というのは、なかなかお互いに親しくなれないですよね。僕も台北に住んでいますが、なんとなく距離がある。たとえば昔は、誰かの家へ遊びに行きたい時は、勝手に行けばよかった。いなければ、ああ、いなかったと。今はいちいち連絡し、いつ、何時にと予約しなければなりません。南部に住んでいた頃は、友達の家に行きたければ勝手に行って、いなければ家族の人と話をして『また来ますね』と自由に行き来できたんですが、今はなんでも予約しないといけない。そうすると、なかなか親しくなれません。物理的な距離は近いけど、心に開きがあるんです」

Q:心に壁を感じる?

監督「そう。でも、恋愛は違うと気づきました。恋に落ちると、周りの通行人がニッコリ笑っているように見えるんです。でも、恋をしていないと、周りもつまらなく見えてしまう」

親しみやすい珠玉のラヴソングたち

Q:2回拝見したのですが、2回目の方がすごく面白かったです。

監督「台湾でもそういう声をたくさん聞きました。1回目は、話を追うのに忙しくて、よく観てないんですね」

Q:2回目の時は、歌の歌詞がすごく頭に入ってきて、とてもいいなと思いました。つい歌いたくなりますよね。台湾では、歌う試写会もされたと聞いています。

監督「やりました。皆、とても楽しんでいました。『俳優も来てイベント会場で一緒に歌います』と発表すると、なんとチケットが1、2分で完売したんです。特にイベントの最後では、すごくたくさんの人が来ると思って一番大きなホールを借りました。満席になったのですが、歌い始めると、観客の中の誰かがいきなり立ち上がってサキソフォーンを吹いたんです。映画の中で、スミンが花屋で『ドとミ、ソがない』を歌う時に、たくさんバンドが出てきますよね。あんな風になって、すごく盛り上がりました。皆、大喜びでした」

Q:日本でもできるといいですね。

監督「(うれしそうに笑って)観客が多いといいんですよね。映画を2回も3回も観た人は、一生懸命歌いますから」

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ダーハーが夢想する夢の結婚式にも、花屋で登場したバンドが登場

(c)2017 52Hz Production

Q:たくさんの歌がありますが、好きな歌はありますか?

監督「映画のラスト近く。レイレイとダーハーがレストランで着席して歌い初めて、それから彼が彼女を駐車場へ追いかけていく時の歌(『まだ間に合う』)が好きですね」

Q:その後の「十年」という歌もいいですよね。

監督「うーん『十年』ね。でも、僕はさっきの歌の方が好きです(笑)」

Q:マー・ニエンシェンさんが作った「ドとミ、ソがない」も面白くて印象に残ります。どの歌も、覚えやすくて親しみやすいですね。

監督「2回観ると、どの歌も口ずさめますよね。中国語の歌詞そのものが、すごくよくできているんです」

Q:もともと、ミュージカルはお好きなのですか?

監督「好きです」

Q:参考にした作品はありますか?

監督「やはりブロードウェイのミュージカルや作品をたくさん観て参考にしようと思いました。また、ミュージカルを映画化した作品もずいぶん観ました」

Q:逆にこの映画を舞台にするのもいいですよね?

監督「台湾でも舞台にしてはどうかという話がたくさん出ました。しかし台湾では、ミュージカルはそれほど人気がないんです。いくつかの相手と話はしたのですが、皆『ミュージカルねえ』と。普通の舞台劇をやりたかったようです」(次頁へ続く)


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映画の中で歌われる曲
・今日はバレンタインデイ
・52Hz アイラブユー
・バラを植えたのは誰?
・愛は不良債権
・鏡の中のあなたとわたし
・愛の経歴
・ドとミ、ソがない
 作曲:マー・ニエンシェン
・天気雨
 作曲:マー・ニエンシェン
・ちょっと苦く、ちょっと甘く
・門の内側と外側
・黄金比例
・天使にも愛が必要
・まだ間に合う
・運命がチャンスと出会う時
・十年
 作曲:スミン
・大世界小世界
 作曲:ファン・イーチェン
・愛情ラララ
 作曲:スミン
歌曲を作った人たち
音楽を担当しているのは、作詞家のマシュー・イエン(嚴云農)と編曲の天才と言われている作曲家で音楽プロデューサーのリー・チェンファン(李正帆)とジェニファー・リー(李王若涵)夫妻。マー・ニエンシェン、スミン、ファン・イーチェンも曲を提供しています。
サントラ盤紹介

「電影音樂創作輯 台湾映画O.S.T」 52Hz, I love you
電影音樂創作輯 台湾映画O.S.T

(環球音楽)