logo


asicro interview 06

更新日:2005.4.10

タイの6人の監督たち

黒いスーツできめた監督たち。
左よりディアオ、ボール、ヨン、ピン、トン、エス。(敬称略)


フェーンチャン/ぼくの恋人
−監督インタビュー

 少年少女時代の甘く懐かしい思い出を呼び覚ます『フェーンチャン/ぼくの恋人』を作ったのは、なんと6人の若手監督たち。成長著しいタイ映画界の今後をしょって立つであろう監督たちに、単独インタビューを試みました。記者会見時とは違い、皆さんリラックスしたムードでそれぞれの意見が飛び交い、にぎやかなインタビューとなりました。
(以下、A=アジクロ各呼名=それぞれの監督さんたち。)

●映画の中の印象的なシーンについて

A「音楽がたくさん使われていて、ミュージカルのような印象もありますが、意図的にそうされたのですか?」

 ヨン「この映画は80年代の古き良き思い出を描いているので、音楽は僕たちの記憶を過去の思い出に容易に連れていってくれる要素だと思ったのです。例えば、ラジオでDJが昔の曲をかけると、『あ、あの頃の曲だ』って思い出しますよね。だから、最初から曲を入れることは決めていました。それで、家にある古いテープを引っ張り出してきて、映画に合うかどうかに関わらず、皆で好きな曲をまず100曲ほど選びました。それから、子ども映画にそぐわないものを外して30〜40曲までに絞り、その中から映画のストーリーに合う曲を選びました。」

A「子どもたちが歌い出すシーンがありますよね?」

 ピン「意識したのではなく、ストーリーに合っているからそうしたのです。例えば、子どもの日の学芸会で子どもたちがステージで踊るのは、タイではどこの学校でもやることなんです。」

 ボール「特にミュージカル的な要素を意識したのではなく、自分たちの実体験に基づいているのです。例えば、サッカーをして皆が勝利に酔いしれ、自転車で歌いながら走っていくというシーンですが、僕たち自身も日常的に気分がいい時は歌い出しちゃうんです。たまたま、それが入ったというだけのことです。」

 ヨン「曲はストーリーに合う、雰囲気作りの要素として必要だったんです。それを、いかに自然に見せるか。例えば、たまたまラジオをつけたら曲が聞こえて来たとか、学芸会、結婚式の歌…と、さり気なく入れるようにしています。」

A「タイの人々にとって、生活の中で歌うことは自然なんですね。」

 一同「そうですね。」

A「森の中のカンフーシーン(少年たちのチャンバラごっこは昔の香港ドラマのパロディ)も印象的でした。ここだけワイヤーワークを使った特撮のようになっていて、香港映画みたいで面白かったのですが、どんなドラマを参考にされたのですか?」

 と質問してみたものの、「シー・サオ・チェンという俳優さんが出ていて、ヒーローがプン・プイ・チェン、ヒロイン役がディエン・アンでした。香港のドラマです。」と言われても、名前の見当がつかずさっぱり。考えている間に、なんと監督たちが突然「ルルル〜ルルル。トゥン・トゥン・トゥン・トゥン…♪」と皆で主題歌を歌ってくれたのでした。

 トン「子ども時代にすごく流行ったドラマなので、僕たちくらいの世代は皆知ってます。」

 エス「この曲を聞くと皆が『ああ、あれか!』て思うんです。」

 サッカーのシーンで、GKの男の子が『少林サッカー』みたいなポーズをとっていたことを思い出して、

A「サッカーのシーンはちょっと『少林サッカー』風でしたが、パロディですか?」

 一同「パロってはいません。」

 ピン「そこまではできません。」

 ヨン「『少林サッカー』はとても好きなのですが、あの映画はもっと漫画的ですよね。僕たちは素人俳優を使って、いかにリアルな演技を見せるかに気を配りました。」

 ボール「僕たちの映画にはCGを使ってないですよ」

●6人で監督したことについて

A「6人で映画を作ることは大変だと思うのですが、役割分担はされたのですか?」

 ディアオ「撮影現場では役割分担をしました。ピンとボール、トンはモニターチェック。エスはアクティング・コーチとして役者の演技指導。ヨンは撮影監督。僕はキャスティングをしたので、役者の現場での世話です。だけど、例えば現場で脚本通りにいかないとか、合わないということが出ると、まず皆で話し合い、必ず討議をして意見を一つにまとめてから、それぞれの現場に戻っていきました。」

A「なかなか答えが出ない時はどうしましたか?」

 トン「投票をしました。多数決です。でも多数決ですんなり決まることはあまりありませんでした。時には、5対1で意見が分かれることもありますが、5が絶対の意見ではなく、残りの1の人がちゃんとした理由を述べて、他の5人の意見を覆す逆転の可能性もありました。」

 ボール「たとえば、二人の意見を混ぜるという方法でもよかったのですが、それをやるとディレクションがうまくいきません。だから、どっちか正当な理由のある方を選びました。」

 トン「そうそう。たとえば、5対1の1の人がどうしても納得できない場合は、皆でゴリ押しをしないで、その人の為にちゃんと理由を聞く機会を与えました。」

A「皆で納得するまで話し合ったということですね。」

 一同「その通りです。」


●つづきを読む 1 > 2
●back numbers
監督たちのプロフィール
●エス/コムグリット・ドゥリーウィモン

es
1973年1月19日、アユタヤ県生まれ。
記者会見ではよく話していたエスさん。今回は他の監督さんたちに話をむけるように言葉少なめ。写真撮影では一番弾けていました。現在は連続ドラマを製作中。次回作は『親友』。

●ディアオ/ウィッチャヤー・ゴージウ

diao
1977年3月13日、バンコク生まれ。
ヨンさんと共に留学経験のある一番若いディアオさんは、スポークスマン的存在。現在はエディターをやりながら、他の監督たちの作品の編集や予告編作成をサポート。

●ヨン/ソンヨット・スックマークアナン

yon
1973年8月20日、バンコク生まれ。
会見でもインタビューでも一番話してくれたのがヨンさん。短編映画での受賞経験もあり。次回作はジアップを演じたチャーリーを主役にした『寄宿生』。

●トン/ニティワット・タラートーン

ton
1974年7月21日生まれ。
一番穏やかな印象のトンさん。会見時はチャルームポン君の隣りで質問の説明をしたり、助け船を出したりとお父さんのような印象も。次回作は『愛するサーラヤー』。

●ピン/アディソーン・ドゥリーシリカセーム

bin
1975年11月2日、スラーターニー県生まれ。
本作の脚本にもかかわったピンさん。会見時はほとんど話さなかったけど、実はおしゃべりでユーモラス。次回作はアクション・コメディ『Lucky Losers』。

●ボール/ウィッタヤー・トーンユーヨン

paul
1973年10月22日、サラブリ県生まれ。
本作の原作者がボールさん。会見時とは違って、たくさん話してくれました。本音は主役を演じたかったのかも? 次回作は日本との合作映画『卒業旅行』。

*監督たちのデータ・プロフィールは巻頭特集にあります。
作品紹介ページはこちら。